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パズルプラットフォーマーの皮を被った、ゲームそのものをからかって遊ぶゲーム『STRANGE KEYWORLD』レビュー

一見すると『STRANGE KEYWORLD』は入力に応じて足場が消えたり現れたりする2Dパズルプラットフォーマーに見える。 たしかに、序盤のレベルではパズルプラットフォーマーとしての美麗で卒のないデザインに従事している。 しかし、それは本作の持つ特徴が表出したほんの一例に過ぎない レベルが進むに連れ、次第に歪でダーティーな、そして無邪気な側面を見せ始める。

しかし、その前にまずはパズルプラットフォーマーとしての『STRANGE KEYWORLD』を見てみよう。 既に少し触れたように、本作では入力に応じて足場が消えたり現れたりする。 より正確には足場の判定が消えたり現れたりする。 例えばプレイヤーの天井を左矢印マークの足場が防いでいるのなら、左入力をしつつジャンプすればいい。 プレイヤーの足場に左矢印マークが刻まれていた場合は左入力をすれば落っこちてしまう。 しかし、プレイヤーが左に行きたい場合はどうしよう?答えは簡単で、先にジャンプしてから空中で左入力を入れればいい。

このように、本作は特徴的なメカニクスをコアコンセプトとしたコンセプチュアルなゲームに見える。 しかし、パズルプラットフォーマーとしての『STRANGE KEYWORLD』の美点はメカニクスではなくレベルデザインにこそある。

バリエーション豊かなレベルデザイン

はっきり言ってしまえば本作のメカニクス、つまり入力と足場が連動するプラットフォームアクションそれ自体にそこまでの目新しさはない。 ここまで視覚的にも直接的な手法は目を引くが、部分的には多くのプラットフォーマーにおいて数あるギミックの1つとして使われてきた。 しかし、本作では数あるギミックの1つどころかコアメカニクスという位置づけにある。 だからこそ、このメカニクスを活かすべく多種多様なレベルデザインが用意されている。 そこが他のプラットフォーマーに対する本作最大の相違点であり、実際にバリエーション豊かなレベルデザインを実現したことこそが最大の美点である。 特徴的なメカニクスはむしろレベルデザインの引き立て役であるとさえ言える。

シンプルなレベルの例。シンプルで美しくはあるが、このようなレベルだけだと途中で飽きてしまうだろう。

本作では入力に応じて足場が消えたり現れたりするわけだが、実は受理する入力は画面上に表示されている足場によって決まる。 要するに、右矢印が刻まれた足場がなければプレイヤーは右に進むことができない。 また、本作の入力系統は大きく3種類ある。 1つは上下左右の矢印で、上はジャンプ、下は単に無視される。 そして、ジャンプはスペースキーでも行うことができる。 最後に、WASDでも矢印同様の操作が可能だ。 左右移動は2種類、ジャンプに至っては3種類の入力方式がある。 しかし、実際に入力可能なのは画面上に表示されている足場に依存する。 つまり、この3種類の入力方式を混在させたり一部の入力を受け付けないような組み合わせのレベルが存在する。

さらに、本作では壁や足場に対して側面から衝突した場合、その壁や足場が存在する方向に入力しつつジャンプすることで反対側に壁ジャンプができる。 もちろん判定が消失した足場へ壁ジャンプすることはできない。 そして、入力に対する足場のオンオフは当然ながら空中でも瞬間的に切り替わる。 衝突したくない足場、壁ジャンプのために衝突したい足場、そして壁ジャンプ後の操作。 これらが全て目まぐるしく入り乱れる。 しかし、いずれにしてもプレイヤーは入力に応じて変化する足場への対応を迫られるという体験に終始する。

『STRANGE KEYWORLD』は相応にチャレンジングなゲームであり、特にシークレット要素である丸いアイテムの回収を狙うとパズルとアクションの両方に対して深い理解と繊細な入力を要求される。 最初にルートを思い浮かべ、それを実現すべくトライアンドエラーを繰り返す体験は『I Wanna Be the Guy』や『Celeste』のような趣がある。

最早パズルとか関係なくプラットフォーマーとして難しい。

足場に刻まれた矢印をナビゲーションとして使うこともある。 以下の画像ではナビゲーションとしての意味しかないが、足場として機能しつつナビゲーションとしても機能する複合的な例もある。 『スーパーマリオブラザーズ』におけるコインを用いたプレイヤーの誘導を始めとして、優れたプラットフォーマーには丁寧なナビゲーションがよく似合う。

時にはUIとして。時には足場として。時にはナビゲーションとして。

アクションとパズルの不協和

本作に限った話ではないが、パズルプラットフォーマーは相反する2つの要素を同居させている都合上綻びが発生しやすい。 要するに、レベルをうまくクリアできない場合、パズル部分で失敗しているのかプラットフォーマー部分で失敗しているのかがわからなくなりうる。 プレイヤーに失敗の原因をうまくフィードバックできないゲームデザインはよろしくないが、パズルプラットフォーマーはそのようなデザインになりやすい宿命を背負っている。 そして、残念ながら本作にもそれが当てはまる。 思うに、本作のレベルデザインは成功と失敗のコントラクトが弱いのだろう。

本作において失敗のフィードバックが機能不全を起こしている典型的なケースとして、パズルとして間違っているのかもしれないが自分がアクション下手なだけで失敗しているのかもしれないという不安感がある。 要するに失敗した時に明らかに上手くいかなさそうという感覚があまりなく、むしろ頑張ればいけなくもなさそうというぼやけた感覚が多い。 失敗時の「この方法は明らかにおかしい」という感覚をプレイヤーにうまく与えるレベルデザイン、成功と失敗の距離が遠い―すなわちよりパズル側に倒した―レベルデザインであればフィードバックは改善されたかもしれない。

以上はジャンルが持つ本質的な不協和であるが、本作固有の不協和も存在する。 本作には正しい進行をしないと無限にループするレベルという、入力による足場の変化以外のパズルが存在する。 このパズルそのものの出来は決して悪いものではない。 事前にヒントが提示されており、パズルとしてのフェアネスは保証されている。 しかし、いかなる意味においても入力による足場の変化というコアメカニクスとは関係がない。 要するに、全く関係ない別の遊びが紛れ込んでしまっている。 局所的にはフェアなパズルだとしても、ゲーム全体を通して見ればそうとは言えない。 プレイヤーはコアメカニクスとの関連を見出さずにはいられないのだ。

ループのパズルそのものも既視感のあるチープなものに過ぎない。

ゲームそのもので遊ぶ遊び

ここまで『STRANGE KEYWORLD』のパズルプラットフォーマーの側面を見てきたが、最初に述べたように本作最大の特徴はそこではない。 少なくとも私が本作を評価する最大のポイントは記号の多重性とゲームに対する無邪気なからかいにこそある。 そもそも本作は全くと言っていいほどプレイヤーに説明をしないゲームである。 入力に対応して足場が変化するというコアメカニクスさえ満足に説明していない。 それどころか操作方法さえ説明していない(ストアのページにさえ載っていない!)。 しかし、ほとんどのプレイヤーは何の疑問も抱かずにキャラクターを操作できたはずだ。 それは冒頭のレベルにおける足場が操作方法を意味するUIを兼ねているからに他ならない。

レベルに存在する足場に対応する入力しか受け付けない時点で、あらゆるレベルにおいて足場は同時に操作方法としてのUIを意味している。 そして、既に述べたように足場はしばしばナビゲーションを意味する。 もちろん足場は足場を意味するし、メカニクスとの関係からよりダイナミックなギミックになりうる。 このように、本作における足場の持つ意味は非常に多様で入り組んでいる。 同時に複数の意味を兼ねることもあるし、レベルごとに意味がアドホックにうつろう。 これらの記号と意味の関係性は典型的なプラットフォーマーが普通持つものからの類推であり、このように本作はゲームそのものに対する批評的な視座を持ちうる。 つまり、多くのゲーマーが持つ常識に依存したデザインをしている。 本作にはアルファベットが刻印された足場が数多く存在するが、移動を司るアルファベットはWASDの4つのみである。 言うまでもなくこれはゲーム内では説明されない。 するまでもないからである。

どうでもいいけどこのキャラクターってアニメーションが『Downwell』のに似てるよね。

本作のコアメカニクスはパズルプラットフォーマーとしての素朴な仕掛けではなく、多くの場合にゲーム内世界とは別の場所に存在するとされるUIをゲーム内世界に引きずり込むある種のモダニズム的な姿勢の発露として見ることができる。 むしろUIをゲーム内世界に引きずり込むことの正当化としてのメカニクスとさえ言えるのかもしれない。 多くのゲームは制度化された枠組みの中でルールと戯れることで遊ぶが、本作はむしろゲームそのものと戯れる遊びを展開している。 ルールと戯れるためにはルールを明確化する必要がある。 だからこそ多くのゲームはチュートリアルという形でルールをプレイヤーに伝え、共有を図る。 本作の一貫した説明不足的姿勢との差異はここにある。 要するにルールの中で遊ぶのではなくルールそのものを探す遊びであると言える。

このようなゲームとして『The Witness』や『Baba Is You』がある。 いずれもルールの中で遊ぶだけでなく、ルールそのものを遊びの対象とみなしている。 しかし、それぞれに戯れる対象は異なる。 『The Witness』はゲーム的なものが世界に存在している、即ち現実がゲーム的でありうるとしてゲーム的な遊びを対象にしている。 一方『Baba Is You』はよりアブストラクトにルールそのものを遊びの対象とし、そのためにルールを駆動するルールとしてのメタルールを導入している。 そして、『STRANGE KEYWORLD』はゲームそのものを遊びの対象にしている。 だからこそゲームにおける常識(移動はWASD、UI的な配置はUI的な意味を持つ)は説明しないし、むしろそれらを元にルールを推測する必要がある。

このようなゲームに対するある種のメタ的な視点を持ちながらも、本作はありがちなシニシズムに陥っていない。 むしろ無邪気にからかっているように見える。 この無邪気さは遊びの持つアナーキズムなムード、不真面目で反体制的な姿勢の発露と言える。 言わば一種のトロール行為であり、ゲームを使ってゲームを面白おかしく遊んでいるのだ。 このような姿勢は終盤にグリッチと言った形でわかりやすく表出する。 本作のグリッチ演出そのものの良し悪しについてはなんとも言えないが、本作の持つメタ的で飄々としたトロール的なムードとはマッチしている。

作品のムードには合っているものの唐突感は否めない。

ダーティーなパズル

最後に『STRANGE KEYWORLD』の持つ妖しい魅力―ゲームに対する無邪気なからかい―が最も遺憾なく発揮されている代表的なパズルを2つ紹介しよう。

プレイヤーのすぐ上には触れると即死のトゲが一面に敷かれている。 そして、プレイヤーの下にはスペースキーに対応する足場が存在する。 次の行き先はどうやらこの足場の下にあるらしい。 ここで素朴に足場の上でスペースキーを押すと足場は消えるが同時にプレイヤーはトゲに向かって勢いよくジャンプしてしまう。 実は本作のジャンプには隠された仕様がある。 それは、ジャンプキーを押し続けても連続でジャンプが発生しないというものだ。 しかし、キー入力判定そのものは発生しているので対応する足場の判定は消滅する。 そして、本作はレベルを横断してキー入力が持続するという仕様がある。 即ち、1つ前のレベルでスペースキーを押し、そのまま当該レベルに進めばジャンプは発生せずにスペースキー入力は発生する。

レベル遷移の前後でキー入力の判定が持続するというゲーマーあるある。

パズルとしてみたとき、このレベルのフェアネスは相当に怪しい。 1つ前のレベルではジャンプの必要がないにもかかわらずスペースキーに対応する足場が存在することが一応のヒントにはなっているが、そもそも説明されない仕様に依存しすぎている。

次に、小さな足場の真上にある大きな足場へのジャンプを目的としたレベルがある。 真上の足場は大きいだけでなく右入力に対応する足場なので垂直なジャンプができない。 素朴に右入力を押しながらジャンプすると足場の右端に衝突し、壁ジャンプが発生してしまってうまくいかない。 ではどうするべきか。 移動についても本作には隠された仕様があり、左右を同時に入力するとその場で静止するのだ。 もちろんその状態でも左右入力の判定そのものは発生している。 そのため、左右を同時に押しながらジャンプし、最も高い地点で左右を同時に離せば問題なく到達できる。

『STRANGE KEYWORLD』は左右同時入力で移動しなくなるタイプのゲーム。他には左入力優先タイプなどがある。

これもまた非常にダーティーなパズルと言える。 左入力に対応する足場がこれみよがしに置かれていることがヒントになっていると言えなくもないが、本作の持つからかいのムードをよく表している。

このような隠された仕様はいずれもゲーマーにとって馴染み深いものである。 その点でゲームに対する批評的な視点に基づいたパズルと言える。 それはプレイヤーに冷水をかけてハッとさせるようなドライなものではなく、むしろゲームに対する慈愛に満ちている。 そのためゲーマーはそれらを微笑ましく感じられることだろう。 要するにこれはゲームあるあるで構成されたゲームパズルなのだ。

本作はダミーのエンディングと隠されたエンディングがある。隠しエンディングへの入り口もまたトロール的なものになっている。

総評

ゲームそのものを無邪気にからかい、ゲーマーの持つ常識やゲームが持つダーティーかつ直感的な仕様に依存したパズルやゲームそのものと戯れる姿勢は極めてモダンかつインディー的。 ゲーム内の記号がUIを、足場を、ナビゲーションを意味し、それらの意味が交差し混ざり合う混沌とした様相は、ゲーマーを多幸な情報の渦に誘うジェットコースターのプラチナチケットになるだろう。

GOOD

  • バリエーション豊かなレベルデザイン
  • ダーティーなパズル
  • ゲームをからかう遊び

BAD

  • パズルとアクションの不協和
  • ダーティーなパズル
  • 傑作
  • 秀作
  • 良作
  • 佳作
  • 凡作
  • 駄作
傑作

『STRANGE KEYWORLD』は一見すると操作に応じて足場が変わるパズルプラットフォーマーだが、その実ゲームそのものをからかって遊ぶゲーマーへのラブレターであり、ゲーマーであればあるほど微笑ましく感じられるだろう。

タイトル: STRANGE KEYWORLD 作者: GMshara リリース: バージョン: 1.0.2 プラットフォーム: Windows 価格: 無料 言語: 日本語 レビュアー: 吉井歩 プレイ時間: 1時間