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迫りくる虫や幽霊をポイントアンドクリックで撃退するキュートホラーパズル『ENTITY』レビュー

『ENTITY』は襲いかかる敵からマウスを使って女の子を守り抜く、ポイントアンドクリックを採用したホラーゲームだ。 頭は起きているのに体が眠ったままの睡眠障害(いわゆる金縛り状態)になってしまった女の子。 蜘蛛や幽霊、エイリアンまでもが現れて動けない彼女に襲いかかる。 さあ、マウスを駆使して彼女を助けよう!

ホラー×パズル×ポイントアンドクリックのハーモニー

とは言え、本作は敵をマウスでクリックするだけの単純なゲームというわけではない。 確かに序盤の敵であるJellyはマウスでクリックすれば簡単に倒せる。 しかし、テレビの中から這い出てくるTelevisionはいくらクリックしても倒せない。 そうではなくテレビの電源ボタンをクリックしてテレビの電源を切ってしまえばTelevisionはその場で跡形もなく消え去ってしまう。

テレビから出てきたのならテレビを消せばいいじゃない。

このように、本作は敵の発生条件を推察することで敵を撃退するパズルゲームでもある。 パズルそのものは難しくなくとも、じっくり考え込んでしまっては動けない女の子はやられてしまう。 だからと焦ってしまえば視野が狭くなりパズルが解けない。 この単純にして明快なジレンマが、じわじわと襲いかかる敵を相手に何も手が打てないという恐怖体験といかに相性が良いかは言うまでもないだろう。 ホラー×パズル×ポイントアンドクリックの組み合わせを思いついた時点で『ENTITY』の勝利は見えていたと言える。

ああ!もう!ハエ叩きがうまく取れない!ちょっと待ってってば!

『ENTITY』はキュートでコミカルなビジュアルではあるが、ゲームプレイを通して迫りくる恐怖を描くことに成功している。

因果関係が不明瞭なパズル

しかし、パズルの品質は大きなばらつきがある。 そして残念ながら大半のパズルの品質は高いとは言えない。 敵の見た目や振る舞いとその倒し方に因果関係を見出し難いのだ。 例えばエイリアンはマウスをエイリアンに合わせてスペースキーを押すことで倒すことができる。 何故?エイリアンは宇宙(スペース)からやってきたから。 フォローしておくならば、このゲームには敵の図鑑を読むモードがある。 プレイ中に一度でも出現した敵は図鑑に載り、そこで敵の説明文を読むことができる。 エイリアンの項にある文章を読むと倒し方のヒントになっていることがわかる。

宇宙から来たエイリアン(画像右)。スペースとスペースキーをかけた高度なジョーク。このジョークの出来そのものは評価しないことにする。

ここに2つの問題がある。 1つに説明文が英語であるということだが、これは英語が不得意な私のようなプレイヤー固有の問題であり、本質的なものではない。 より深刻な問題として、初見プレイ時にヒントが一切ないということだ。 一回失敗し、タイトル画面に戻り、図鑑を見ることで初めてヒントを見ることができる。 端的に言ってフェアではない。 ゲームプレイにフェアネスが担保されなくなると、どうしてもプレイがおざなりになってしまう。 ようするに、真剣に敵の対策を考えても仕方がなく、一度死んで図鑑を読めばいいというプレイ姿勢を促してしまう。 残念ながらエイリアン以外にもこのような因果関係の不明瞭なパズルが数多く存在する。 私は特にShadowの倒し方がわからず苦労したが、わかった時は達成感よりも先に徒労感に襲われた。 Shadowの倒し方がわからないプレイヤーは図鑑を見返すことをおすすめする。

いずれにせよ、パズルと試行錯誤を中心とした基本コンセプトがうまく行っているだけにここは本当に惜しい点だ。

チャレンジブルな終盤と退屈な序盤

ゲームを手っ取り早く面白くする方法は2通りある。 プレイテンポを速くするか、同時に襲いかかる困難の数を増やしてしまえばいい。 要するにプレイヤーを慌ただしくさせてしまおうというわけだ。 これは常にベストではないかもしれないが、大抵の場合ベターなアプローチと言える。 本作はWAVEのように緩急のあるレベルデザインをしており、WAVEの切り替え時に象徴的な演出を差し込む。 タイトル画面でも登場している本作の象徴的な敵であるShadowや、窓から見える稲妻など、一瞬の緊張の後にBGMとプレイフィールがアップテンポに変化する。 そしてプレイヤーは情報の洪水の中でなんとか最善を尽くそうとアドレナリンを放出する。

終盤のラッシュはワンミスが命取り。

終盤のチャレンジングは結構なもので、繊細なマウスさばきが要求される本作においてはケアレスミスは発生しやすい。 だからこそ気が抜けないし緊張感が持続する。 反面、序盤は退屈と言わざるを得ない。 特に、敵の倒し方がわかってしまった2回目以降のプレイにおいて、何度も序盤をプレイすることはうんざりする体験だ。 後半の因果関係が不明瞭な敵を相手にしているときの序盤プレイと言ったら堪らない。 はっきり言って序盤でプレイに支障をきたすようなミスをする確率なんて万に一つもない。 私はただ後半に出てくるShadowやエイリアンの倒し方がわからず何度もプレイしているだけであって、序盤なんてもう楽しくもなんともない。 にも関わらず何度もプレイさせられる序盤の印象は悪くなることはあっても良くなることはない。 因果関係が不明瞭な敵、倒されて初めてヒントが貰える構造、退屈な序盤の3コンボはプレイヤーのやる気を尽く奪い去ってしまう。

しかし、チャレンジが枯渇した序盤を何度もプレイさせられる体験は、本作のようなアーケードライクなゲームにおいてはありふれている。 そこで、多くのアーケードライクゲームはスコアシステムを導入しており、退屈な序盤はクリアではなくスコアを稼ぐというより高次の目標にシフトすることでチャレンジが復活する。 本作でもスコアシステムが導入されているが、プレイ中は現在のスコアが表示されない。 クリア後には表示されるものの内訳がよくわからず、どうすればスコアを稼げるのかもよくわからない。 結果的に退屈な序盤は依然として退屈なままになってしまっている。

ハイスコアに届かなかったがスコアシステムがわからないのでもやもやする。ひとまずノーミスを目指せばいいのだろうが…。

『ENTITY』は敵の倒し方を推察する遊びとしてデザインされたゲームだと言える。 遊びのために敵の倒し方を隠すことと遊び方そのものを隠すことは異なる。 遊び方を隠すべきではなかった。

キュートなホラー

最後に、ビジュアルの素晴らしさに触れないわけにはいかない。 本作はホラーであり、恐怖体験をうまく表現している。 にもかかわらずキュートでコミカルにも仕上がっている。 色数の少ない抑圧的なデザインでありながらもベースカラーのピンクがどこか賑やかでもある。 残念ながらプレイ画面では彼女の顔は小さく書かれているが、タイトル画面でのコミカルさと恐ろしさを両立した表情はミニマルに『ENTITY』の魅力を伝えている。 キュートかつホラーという組み合わせはそれ自体が1つの価値と言えるだろう。

世界一キュートなホラーゲームであることは間違いない。

また、壁には彼女の様々な私物が掛けられており、その中には敵を撃退する上で必要なものもある。 しかし、すべてがそうではなく、何の意味もないものもある。 その中でも拾うと「にゃー」と鳴く猫の置物が妙に印象的だ。 ポイントアンドクリックである本作において、メカニクス上意味のない小物だろうとも、プレイヤーとのインタラクションにおいて何らかの反応を返してくれるものはそれだけで嬉しい体験と言える。 『ENTITY』の「にゃー」はプレイヤーの試行錯誤に対するささやかな報酬なのだ。

総評

キュートでコミカルながらも迫りくる恐怖を描くことに成功した基本メカニクスは秀逸そのもの。 しかし、因果関係が不明瞭なパズルが全てを台無しにしてしまう。 緩急のあるレベルデザインや終盤のチャレンジングな難易度など優れた点も少なくないが、退屈な序盤や不明瞭なスコアシステムなどの不満点を隠し切るには至らない。

GOOD

  • 試行錯誤が楽しい一部のパズル
  • 緩急あるレベルデザイン
  • キュートなビジュアル

BAD

  • 因果関係が不明瞭な多くのパズル
  • 退屈な序盤
  • よくわからないスコアシステム
  • 傑作
  • 秀作
  • 良作
  • 佳作
  • 凡作
  • 駄作
佳作

『ENTITY』が世界一キュートなホラーゲームであることは間違いない。しかし、因果関係が不明瞭な多くのパズルが初見プレイヤーのホラー体験やチャレンジを阻害する。パズル部分がもう少し整理されていればと思わざるを得ない。

タイトル: ENTITY 作者: Palebits リリース: バージョン: 1.1.1 プラットフォーム: Windows, macOS 価格: 無料 言語: 英語(図鑑テキスト以外はテキストなし) レビュアー: 吉井歩 プレイ時間: 1時間